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金沢地方裁判所 昭和33年(わ)96号 判決

被告人 林好

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金三万円に処する。

但し、懲役刑については、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和三三年三月始め頃から、金沢市長町五番丁五五番地において、旅館「陽喜」を経営しているものであるが、

第一、昭和三三年三月一〇日頃から同年五月中旬頃までの間、同旅館において、別表(一)記載のとおり、和子こと大畠君子ほか五名らとの間に、同女らをして、同旅館に休憩又は宿泊する不特定の男子を相手に売春させることを内容とする契約をなし、

第二、同年四月一〇日頃から同年六月七日頃までの間、別表(二)記載のとおり、松田芳香ほか三名の売春婦らが、それぞれ不特定の男子を相手方として売春するに際し、そのつど同女らに、同旅館の客室を貸与して、以つて売春を行う場所を提供することを業とし

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為中、第一の別表(一)の一及び二の各事実は、いずれも婦女に売淫させる者等の処罰に関する勅令第二条(売春防止法附則第二項、第三項をも適用)に、同表の三ないし六の各事実は、いずれも売春防止法第一〇条第一項に、第二の事実は売春防止法第一一条第二項に該当するので、右勅令違反の罪及び売春防止法第一〇条第一項に当る罪については、それぞれ所定刑中懲役刑を選び、以上の各罪は刑法第四五条前段の併合罪の関係に立つので、懲役刑につき、同法第四七条、第一〇条に従つて、重い売春防止法第一一条第二項の罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内において、被告人を懲役一年六月及び罰金三万円に処するが諸般の事情にかんがみて、右懲役刑については、刑法第二五条第一項を適用して、三年間刑の執行を猶予することとし、又右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべきものである。

なお、本件公訴事実中、被告人が、売春婦大畠君子が昭和三三年三月一二日頃から同月二九日頃まで、前後約一二回にわたり、又売春婦林ふさ子が右同期間内に、前後約一四回にわたつて、それぞれ不特定の男子を相手方として売春するに際し、その情を知りながら、そのつど旅館「陽喜」の客室を貸与して、以つて売春を行う場所を提供することを業としたものであるとの事実(起訴状記載の第二の別表(二)の一及二)については、周知のとおり、売春防止法第一一条第二項の規定は、昭和三三年四月一日から施行をみるに至つたものであるが、右事実は、いずれも同法施行前の行為にかかるので、右行為につき、遡つて同法を適用する余地はなく、且つ、当時他に右起訴のような売春を行う場所を提供することを業とする者を直接処罰する法規は存在しなかつたから、右事実は何らの犯罪をも構成しないので、この点については、もちろん被告人は無罪である。

しかしながら、売春防止法第一一条第二項所定の罪は、いわゆる営業犯又は業態犯の一種と解すべきものであつて、この種の犯罪は、当然一定の行為が反覆して行われることを犯罪の定型とするのであるから、同条所定の業態が継続する限り、多数の売春場所の提供行為があつても、個々の行為は包括集合されて、一個の売春を行う場所を提供することを業とする犯罪を構成するに過ぎないものと解すべきである。ところで、本件において取調べた各証拠資料によると、被告人は、前示起訴にかかる期間及び判示第二記載の期間を通じて、売春を行う場所を提供することを業としていたことが明らかであるから、前記無罪の部分は、結局判示第二の所為と一体をなす一個の犯罪行為の一部分を構成するものというべきものであるので、右無罪の部分については、特に主文において無罪の言渡をしないこととする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩崎喜四郎)

別表(一)

契約日時

同上場所

同上相手方

昭和三三年三月一〇日頃

金沢市長町五番丁五十五番地

旅館 陽喜方

和子こと大畠君子

〃 〃 〃

久子こと林ふさ子

〃 四月一〇日

島村こと松田芳香

〃 〃 二〇日

内田喜美子

〃 五月中旬

大浦佳子

〃 〃 〃

橋場外美香

別表(二)

売春婦氏名

売春期間

同上回数

松田芳香

自昭和三三年四月一〇日頃

至同年五月初旬

約七回

内田喜美子

自昭和三三年四月二〇日頃

至同年五月一〇日頃

約十回

大浦佳子

自昭和三三年五月中旬頃

至同年六月七日頃

約四十五回

橋場外美香

自昭和三三年五月中旬頃

至同年六月五日頃

約十回

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